第七の男

第七の男

概要

​​ジョン・バージャー(1926-2017)──小説家であり、美術批評家、ジャーナリスト、詩人でもあった20世紀イギリスにおける孤高の”ストーリーテラー”が、1975年に発表した、欧州の移民労働者に関する社会派ドキュメンタリー『A Seventh Man』。移民労働者の実存に迫り、新自由主義の悪夢を暴いた美しき”告発の書”を黒鳥社初の翻訳書『第七の男』として刊行しました。


成り立ち

元々電通に勤務されていた金聖源さん。何かのきっかけで知り合って以来、食事の折などにいろいろ興味深いお話を聞かせてくださっていました。2019年、仕事を休職してイギリスに留学された金さんは、大学で文化起業論(カルチュラル・アントレプレナーシップ)や移動・移民学を専攻されました。

コロナ禍の2021年、留学からご帰国された金さんから、ロンドンの土産話とともに、ジョン・バージャーが1975年に発表した『A Seventh Man』について教えていただきました。留学中にこの本と出会って感銘を受けたという金さんは、邦訳本出版に挑戦しようと思い立ったものの、版権取得に難航しているとのことでした。

日本語で読めるバージャーの作品は、ものの見方の再検討に迫った『イメージ:視覚とメディア』(筑摩書房/原題『Ways of Seeing』)、イングランドの田舎医者のドキュメント『果報者ササル:ある田舎医者の物語』(みすず書房)、『批評の「風景」:ジョン・バージャー選集』(草思社)ほか数冊です。日本において、バージャーの存在は漠然としており、全体像が把握されていませんが、イギリスや欧州諸国の美術教育においては、ジョン・バージャーは必ずと言ってよいほど言及される重要人物で、海外のミュージアムショップでは『Ways of Seeing』が必ず置かれています。このように、バージャーは美術批評家として広く知られていますが、活動はそれだけではなく、小説家であり、ジャーナリスト、詩人、画家であったほか、映像製作にも携わっています。バージャーは、自分自身を、「ストーリーテラー」だと語っていたといいます。

多岐にわたる表現活動を展開したバージャーが、自身の膨大な著作のなかから「一冊を選ぶならこれ」と語った名作が『A Seventh Man』です。本書は、ヨーロッパの移民労働を扱ったノンフィクションで、断章形式のテキストが、ジャン・モアが撮影した写真と併置される、なんとも形容しがたい本です。

金さんから相談を受けた黒鳥社は、ふたつ返事で『A Seventh Man』の邦訳本出版を快諾しました。翻訳作業のすべてを金さんにお任せするのは負担が大きいため、海外文学に造詣が深いフリー編集者/ライターの平岩壮悟さんと若林がサポートとして加わり、「日本において、ジョン・バージャーをどういった文脈において紹介していくか」を絶えず考えながら製作に当たりました。

文脈ということでいえば、日本では知名度の低いバージャーですが、お隣の韓国ではすでに20タイトル以上が翻訳されている人気現代作家です。社会問題と鋭く向き合ってきたことで知られ、近年日本でも広く認知されるようになった韓国の文学界において、バージャーが重要な位置を占めているということは、本書を日本に紹介するやり方を考える上で大きなヒントとなりました。帯の推薦文として、韓国の詩人キム・ソヨンさんに素晴らしいコメントをいただけたのは大変光栄なことでしたが、それも、こうしたヒントがあったからに他なりません。コメントをいただくにあたっては、日本において韓国文学を紹介する活動を牽引してきたCUONの金承福さんに大変お世話になりました。彼女によれば、日本で発売される単行本に、韓国の文学者が推薦文を書き下ろすのは初めてのことではないか、とのことです。

英国文学の隠れた名作を、韓国の詩人のことばを介して日本に紹介する。原著の素晴らしさは言うまでもありませんが、初邦訳の本書は、そんな面からもちょっとユニークな書籍になったのではないかと自負しています。