総動員の哲学 ―1930年代の技術論―

総動員の哲学 ―1930年代の技術論―

概要

ファシズム・全体主義、あるいは総動員体制という概念を特徴づけているのは「技術」である──。20世紀を強く規定してきた「技術」への信頼、そしてそれがもたらした「動員」という概念の恐るべき射程を、いま改めて問い直す全6回講義。講師には、哲学者の岡本裕一朗さん(玉川大学名誉教授)をお招きしました。


成り立ち

ロシアのウクライナ侵攻について調べるなかで、世界中で問題となっている極右勢力の問題に興味をもった若林が、ドイツの思想家エルンスト・ユンガーの著作や『「大東亜」を建設する』『帝国の計画とファシズム』といった日本のファシズムに関する書籍を読むなかで、ファシズムを「技術」という観点から読み解くことができないかと考え、「浜学園の哲学講座」でもご一緒した哲学者・岡本裕一朗さんに相談をもちかけたことから、この全6回の講座は始まります。

岡本さんと議論を重ね、技術論が世界的に大きな転回を迎えた1930年代に焦点をあて、その前後の思想的な潮流などを、ドイツを中心に日本、アメリカの状況も含めて概観していくという講座の大枠が決まりました。そしてユンガーの技術論から、「総動員」という言葉をタイトルとしていただきました。

若林は司会進行として講義に参加し、講義内容は岡本さんにお任せするという建て付けとなりましたが、岡本さんが毎回、講義に合わせてその都度学ばれてきたことをお聞きするのは、とてもスリリングでした。誰かがすでに語った歴史や仮説をなぞるのではなく、都度「仮説を立て→調べ→発表する→参加者のフィードバックを受ける」ことを繰り返すなかで、岡本さんご自身も思いもしなかった見立てが立ち上がってくるのは面白く、単に知識を伝授するのではないユニークな学び合いの場となりました。

この講座は黒鳥社と関わりのある親しい方だけにお声がけしたクローズドのイベントでしたが、ここで得た学びは、いずれ本として出版したいと考えています。また、岡本さんとは、同様の建て付けを使って、「サイバーセキュリティの哲学」と題した連続講義を開催しましたが、こちらも予想だにしなかった話題が飛び出してきて、非常に楽しく有意義なものとなりました。